「住宅ローンは繰り上げ返済しないほうがいい」は本当か

最終更新: 2026年8月11日

ここ数年、「繰り上げ返済はしないほうがいい」という話をよく見かけます。 根拠として挙げられるのは、だいたい次の4つです。1つずつ確かめていきます。

  1. 住宅ローン控除があるから
  2. 団体信用生命保険があるから
  3. 手元の現金が減るから
  4. 金利が低いので投資に回したほうがいいから

結論から言うと、3は常に正しく、1と4は条件つきで正しく、2は過大評価されがちです。

1. 住宅ローン控除があるから → 条件つきで正しい

住宅ローン控除は年末残高の0.7%が戻ってくる制度です。 繰り上げ返済で残高を減らすと、戻ってくる額も減ります。 金利が0.7%を下回っているなら、 消える利息より失う控除のほうが大きい——これが1の主張です。

計算のうえでは、この指摘は正しいです。ただし、次の2つの但し書きがつきます。

  • 残高が控除の借入限度額を超えていれば、繰り上げても控除は減りません。 限度額3,000万円に対して残高が4,000万円あるなら、 300万円繰り上げても控除の対象は限度額のままです。
  • 控除しきれていない人にも当てはまりません。 控除額が所得税・住民税の額を上回っていると、上限で頭打ちになっています。 この場合、残高が減っても実際に戻る額は変わらないことがあります。

いくらの差になるかは 繰り上げ返済と積立投資はどちらが得かで 金利ごとに計算しています。

2. 団信があるから → 一理あるが、当てにしすぎない

団体信用生命保険(団信)は、契約者が亡くなったときなどにローンの残高が0になる保険です。 「繰り上げ返済すると、その保険でカバーされる額が減ってしまう」という理屈が2です。

理屈としては間違っていません。しかし、これを繰り上げ返済しない理由にするのは、 自分が早く亡くなる前提で家計を組むということです。 同じ考え方をするなら、生命保険を増やしても同じ効果が得られますし、 そちらのほうが用途を選びません。

現実的な使い方としては、団信があるぶん、生命保険を減らせないか見直すほうが 建設的です。住宅を買ったのに独身時代と同じ死亡保障を掛けたままの人は珍しくありません。

3. 手元の現金が減るから → これは常に正しい

4つのなかで、これだけは条件を問いません。 繰り上げ返済したお金は、二度と戻ってきません。

失業、病気、離婚、家族の介護、屋根の修理。 現金がないと、これらに対して金利の高い借入で対応することになります。 住宅ローンより高い金利で借り直すのは、明らかな損です。

目安としては、生活費の6ヶ月〜1年ぶんを残したうえで、 それを超える部分を繰り上げ返済に回す。この順番だけは崩さないほうが安全です。 教育費や車の買い替えなど5年以内に使う予定があるお金も、手元に残します。

4. 投資に回したほうがいいから → 期待値では正しい

金利1%のローンを繰り上げるのは「年1%の運用」と同じです。 期待利回りがそれを上回るなら、投資のほうが期待値は高くなります。

ただし繰り上げ返済の1%は確実で、投資の4%は平均の話という違いがあります。 30年の平均が4%でも、途中で3割減る年はあります。 期待値だけで決められるのは、その変動に耐えられる人だけです。

繰り上げるなら、どちらの型を選ぶか

「する / しない」の議論に隠れがちですが、実務でいちばん効くのはこの選択です。 繰り上げ返済には2つのやり方があり、結果がかなり違います。

例:ローン残高3,000万円・残り30年・金利1%で、 300万円を繰り上げた場合

期間短縮型 返済額軽減型
減る利息 ¥981,533 ¥473,707
完済が早まる 3年5ヶ月 変わらない
毎月の返済額 ¥96,492(変わらない) ¥96,492 → ¥86,843

利息を減らす効果は期間短縮型が約2倍です。 同じ300万円を入れても、 ¥981,533と¥473,707で ¥507,826の差がつきます。

それでも返済額軽減型を選ぶ理由は、毎月の負担が ¥9,649軽くなることです。 収入が不安定になった、教育費のピークが来る、といった局面では、 利息の総額より月々のキャッシュフローのほうが大事になります。

注意:期間短縮型で返済期間が10年未満になると、 住宅ローン控除の要件を満たさなくなり、残っていた控除が受けられなくなります。 控除期間中に大きく繰り上げるなら、返済額軽減型を選べばこの問題は起きません。

繰り上げ返済は「早いほど効く」

同じ300万円でも、入れる時期で効果がまったく違います。 繰り上げた元金にかかるはずだった利息が消えるので、 残り期間が長いほど、消える利息も多いからです。

  • 残り30年の時点で繰り上げ → 利息が¥981,533減る
  • 残り10年の時点で繰り上げ → 利息が¥273,915減る

効果は3.6倍ちがいます。 「もう少し貯まってからまとめて」と待っているあいだに、効果そのものが目減りしていきます。 控除の期間が終わったら、早めに動くほうが有利です。

まとめ:繰り上げたほうがいい人

「しないほうがいい」は一般論としては成り立ちますが、次に当てはまるなら話は別です。

  • 住宅ローン控除がすでに終わっている — 1の理由が消えます
  • 金利が高め、または変動金利で上昇が心配 — 繰り上げの効果が大きくなります
  • 定年までに完済したい — 収入が減ってからの返済は利回りの議論より重い
  • 投資の値動きに耐えられない — 確実な1%のほうが向いています
  • 生活防衛資金を確保したうえで、なお余っている

逆に、生活防衛資金が足りていないなら、繰り上げ返済も投資も後回しです。 順番を間違えないことが、どちらを選ぶかより効きます。

自分の数字で確かめる

本記事の金額は元利均等返済を前提とした概算です。繰り上げ返済の手数料、保証料の戻り、団信の保障内容、金利の変動は考慮していません。住宅ローン控除の適用可否・限度額・返済期間の要件は入居年や住宅の性能で変わります。実行の前に金融機関と税務署にご確認ください。

このツールが使っている控除の条件と上限は 2026年8月時点のものです。 使用している数値と出典を見る

このページの数値と出典

このページで使っている値と、その根拠です。制度の数値も各社の料金も改定されるため、 判断の前には出典元でお確かめください。

住宅ローン・住宅ローン控除2026年8月時点

  • 住宅ローン控除の控除率年末残高の0.7%
  • 借入限度額(認定長期優良住宅・低炭素)4,500万円子育て世帯等は5,000万円
  • 借入限度額(ZEH水準省エネ住宅)3,500万円子育て世帯等は4,500万円
  • 借入限度額(省エネ基準適合住宅)3,000万円子育て世帯等は4,000万円
  • 借入限度額(中古・認定/ZEH/省エネ)3,000万円
  • 借入限度額(中古・その他)2,000万円
  • 返済負担率年収400万円未満30%/400万円以上35%フラット35の基準
  • 抵当権設定の登録免許税借入額の0.4%
  • 金銭消費貸借契約書の印紙税1,000万円超5,000万円以下で2万円

住宅ローン控除は入居年・住宅の性能・世帯の状況によって条件が細かく分かれ、改正も頻繁です。審査金利や返済負担率は金融機関ごとに異なります。実際の借入可否と条件は金融機関の審査によります。

出典: 国税庁「住宅借入金等特別控除」国土交通省「住宅ローン減税」住宅金融支援機構「フラット35」国税庁「印紙税額の一覧表」

サイト全体で使っている数値の一覧は 計算の根拠と出典にまとめています。 一次情報と突き合わせた記録も同じページに公開しています。