iDeCoは、手数料と出口の税金を引いても得なのか
最終更新: 2026年8月11日
iDeCoの紹介では「掛金が全額所得控除」「運用益が非課税」の2つが並べて語られます。 しかし手数料は毎月かかり、受け取るときには税金がかかることは、 あまり同じ強さでは書かれません。全部引いたら結局いくら得なのか、通しで計算しました。
この記事の計算方法
運用益が非課税なのは NISA でも同じです。 つまり「iDeCoとNISAのどちらに入れるか」を考えるとき、運用益の非課税は差になりません。 iDeCoにしかない得は、入口の所得控除だけです。 そこで、次の式で正味を出しました。
正味 = 節税額の累計 − 口座管理手数料 − 受け取り時に増える税金
前提:年収600万円の会社員(企業年金なし)、掛金 月2.3万円、 想定利回り年3%、60歳で一時金として受け取る。 手数料は月171円で計算しています。
ケース1:退職金がない場合(iDeCoだけを受け取る)
自営業の人や、退職金制度のない会社に勤めている人のケースです。
| 加入年齢 | 年数 | 掛金の累計 | 節税額 | 手数料 | 出口の税金 | 正味 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 25歳 | 35年 | ¥9,660,000 | ¥1,952,300 | −¥71,820 | 0 | ¥1,880,480 |
| 30歳 | 30年 | ¥8,280,000 | ¥1,673,400 | −¥61,560 | 0 | ¥1,611,840 |
| 35歳 | 25年 | ¥6,900,000 | ¥1,394,500 | −¥51,300 | 0 | ¥1,343,200 |
| 40歳 | 20年 | ¥5,520,000 | ¥1,115,600 | −¥41,040 | 0 | ¥1,074,560 |
| 45歳 | 15年 | ¥4,140,000 | ¥836,700 | −¥30,780 | 0 | ¥805,920 |
| 50歳 | 10年 | ¥2,760,000 | ¥557,800 | −¥20,520 | 0 | ¥537,280 |
| 55歳 | 5年 | ¥1,380,000 | ¥278,900 | −¥10,260 | 0 | ¥268,640 |
このケースでは出口の税金がすべて0になります。 退職所得控除(加入年数から計算される非課税枠)が、 積み上がった残高より大きいからです。 35歳から25年加入した人なら控除は¥11,500,000で、 残高¥10,258,180を上回っています。
正味は掛金の総額に対して約19.5%。 手数料は効いていますが、節税額に比べれば小さく、 加入年数が長いほど得も大きくなるという素直な結果です。
ケース2:退職金2,000万円と同じ年に受け取る場合
ここから結果が変わります。会社の退職金2,000万円(勤続38年)を 60歳で受け取り、同じ年にiDeCoも一時金で受け取るケースです。
| 加入年齢 | 年数 | 節税額 | 手数料 | 出口の税金 | 正味 |
|---|---|---|---|---|---|
| 25歳 | 35年 | ¥1,952,300 | −¥71,820 | −¥2,105,619 | −¥225,139 |
| 30歳 | 30年 | ¥1,673,400 | −¥61,560 | −¥1,510,850 | ¥100,990 |
| 35歳 | 25年 | ¥1,394,500 | −¥51,300 | −¥1,032,532 | ¥310,668 |
| 40歳 | 20年 | ¥1,115,600 | −¥41,040 | −¥620,761 | ¥453,799 |
| 45歳 | 15年 | ¥836,700 | −¥30,780 | −¥367,341 | ¥438,579 |
| 50歳 | 10年 | ¥557,800 | −¥20,520 | −¥197,427 | ¥339,853 |
| 55歳 | 5年 | ¥278,900 | −¥10,260 | −¥66,981 | ¥201,659 |
長く加入した人ほど、正味が小さくなっています。 25歳から35年加入した人の節税額は¥1,952,300で、 45歳から15年加入した人の¥836,700より¥1,115,600多いのに、 正味では−¥225,139と¥438,579で逆転します。
なぜ逆転するのか
退職所得控除の枠を、会社の退職金とiDeCoで取り合うからです。
勤続38年の退職所得控除は¥20,600,000。 退職金2,000万円だけならこの枠に収まるので税金は0です。 ところが同じ年にiDeCoを¥17,055,964受け取ると、 合計が枠を大きく超え、超えた分の半額に所得税と住民税がかかります。
しかも控除の枠は増えません。 iDeCoの加入年数(35年)より会社の勤続年数(38年)のほうが長いので、 長く積み立てても枠が広がらないのです。 積み上げた分がまるごと課税対象になっていきます。
この結果をどう受け取るか
「iDeCoは損」という話ではありません。読み取るべきは次の2点です。
- 退職金の見込みが大きい人は、受け取り方を決めてから加入額を決める。 退職所得控除の枠は先に退職金が使ってしまうので、 iDeCoは枠の外側に出やすくなります。
- 受け取る年をずらせば結果は変わる。 一時金の受け取り年を分ける、iDeCoを年金形式で受け取るなどの方法があり、 枠の取り合いを避けられる場合があります。 詳しくはiDeCoの受け取り方で税金が変わるにまとめています。
逆に、退職金がない人にとってiDeCoは素直に有利です。 退職所得控除の枠を丸ごと自分で使えるので、ケース1の表がそのまま当てはまります。 自営業の人の掛金の上限が大きく設定されているのは、この文脈でも理にかなっています。
課税所得がない人は、そもそも節税にならない
見落とされがちなのがここです。iDeCoの入口の得は所得控除なので、 引く税金がなければ効果は0になります。
収入が少ない人、扶養に入っている人、住宅ローン控除で所得税がすでに0になっている人は、 掛金を出しても税金が減りません。それでも 手数料(月171円)は毎月かかります。 この場合、iDeCoは正味でマイナスから始まります。
さらにiDeCoは原則60歳まで引き出せません。 節税にならないうえ資金も動かせないので、 この条件に当てはまるなら、まずNISAを使うほうが理にかなっています。 NISAとiDeCoの比較で、どちらを優先すべきか確認できます。
自分の条件で計算する
この記事は年収600万円・掛金月2.3万円という一例です。 節税額は年収と掛金で大きく変わるので、自分の数字で確かめてください。
- iDeCo節税額シミュレーター — 年間の節税額と60歳までの累計
- 退職金の手取り計算 — 退職所得控除と課税される額
- NISA vs iDeCo — どちらを優先するか
- iDeCoの受け取り方で税金が変わる — 出口の選び方
本記事の金額は概算です。一時金での受け取りを前提とし、年金形式での受け取り(公的年金等控除の適用)は扱っていません。退職所得控除の年数は勤続年数とiDeCoの加入年数の長いほうを使う簡略化をしており、実際には重複期間の調整ルールや受け取る年の間隔によって結果が変わります。節税額は基礎控除と社会保険料控除のみを見た概算で、扶養控除・住宅ローン控除などは含みません。運用利回りは仮定であり、元本は保証されません。実際の判断は運営管理機関・税務署・専門家にご確認ください。