AIエージェント設計の5階層マップ
最終更新: 2026年8月11日
プロンプトエンジニアリング、コンテキストエンジニアリング、ループエンジニアリング、 グラフエンジニアリング、ハーネスエンジニアリング。 次々に新しい言葉が出てきて、「また新しいのが来た」と感じている方が多いと思います。
ですが、この5つは横並びの流行語ではありません。 内側から外側へ広がる層の関係にあります。 そして重要なのは、上の層は下の層の代わりにならないことです。
Harness Engineering
モデルの外側にあるものすべて
Graph Engineering
複数のノードのつなぎ方
Loop Engineering
1体のエージェントが回すサイクル
Context Engineering
モデルに渡す情報ぜんぶの設計
Prompt Engineering
1回の指示文の書き方
外側(5)ほど扱う範囲が広く、内側(1)ほど具体的です。 図の内側は、外側の中で動き続けています。
それぞれが答えようとしている問い
層の違いは「何を扱うか」ではなく、「どんな問いに答えるものか」で見ると はっきりします。
| 層 | 扱う範囲 | 答えようとしている問い |
|---|---|---|
| 1 プロンプトエンジニアリング | 1回の指示文の書き方 | どう頼めば、思ったとおりの答えが返るか |
| 2 コンテキストエンジニアリング | モデルに渡す情報ぜんぶの設計 | 何を渡し、何を渡さないか |
| 3 ループエンジニアリング | 1体のエージェントが回すサイクル | いつ道具を使い、いつ止めるか |
| 4 グラフエンジニアリング | 複数のノードのつなぎ方 | どういう順で流し、どこで分岐し、失敗したらどこへ戻るか |
| 5 ハーネスエンジニアリング | モデルの外側にあるものすべて | この仕組みを、任せられる状態にするには何が要るか |
困りごとから、どの層かを切り分ける
このページでいちばんお伝えしたいのはここです。 症状から、手をつけるべき層が決まります。
| こんな症状が出ていたら | 疑う層 | やること |
|---|---|---|
| 出力の形式が毎回ばらつく。指示したはずのことが守られない | プロンプトエンジニアリング | 役割・制約・出力形式を明示する。良い例と悪い例を1つずつ添える |
| 会話が長くなると前の指示を忘れる。関係ない情報に引きずられる。請求が跳ねる | コンテキストエンジニアリング | 履歴を要約して圧縮する。必要なときだけ検索して足す。メモリを外に出す |
| 同じ失敗を延々と繰り返す。終わらない。無駄に何十回も道具を叩く | ループエンジニアリング | 終了条件を決める。試行回数に上限を置く。失敗したときの戻り方を決める |
| 処理が複雑になり、どこで失敗したかわからない。途中から再開できない | グラフエンジニアリング | 処理をノードとエッジで書く。分岐・並列・人間の承認を図に落とす |
| 動くけれど本番に出せない。権限が怖い。良くなったのか悪くなったのか測れない | ハーネスエンジニアリング | ツールと権限を定義する。記録を残す。評価を用意する。人が確認する場所を決める |
よくある失敗は、プロンプトで済むことをグラフで解こうとすることです。 出力の形式が安定しないという問題は、どれだけ立派な処理の図を描いても直りません。 逆に、ループが止まらない問題をプロンプトで直そうとするのも同じです。 「もっと丁寧に指示する」では、無限に道具を叩き続ける動きは止まりません。
よく一緒に出てくる用語は、どこに置かれるか
MCP、A2A、Evals、サブエージェント。これらも同じ文脈で出てきますが、 層ではありません。規格だったり、設計パターンだったり、営みだったりします。 ただしどの層の話なのかは決まっています。
| 用語 | 正体 | 一言でいうと | どの層の話か |
|---|---|---|---|
| MCP Model Context Protocol | 規格 | AIに道具とデータをつなぐための共通の差込口 | ハーネスエンジニアリング |
| A2A Agent2Agent Protocol | 規格 | 別々に作られたAI同士が、仕事を渡し合うための共通の話し方 | グラフエンジニアリング |
| Evals(評価) Evaluations | 営み | 良くなったのか悪くなったのかを、感想ではなく数字で言えるようにする | ハーネスエンジニアリング |
| サブエージェント Sub-agents | 設計パターン | 作る役と確かめる役を分けて、別々のAIに担当させる | グラフエンジニアリング |
たとえばMCPを入れても、コンテキストの設計が要らなくなるわけではありません。 道具が増えれば、その説明も実行結果も渡す情報に乗るので、むしろ量は増えます。 新しい規格はできることを増やしますが、下の層の仕事は減らしません。
内側から順に見ていくのが確実
新しい言葉が出ると、いちばん外側から手をつけたくなります。 ですが実務では、内側が固まっていないまま外側を作ると、複雑さだけが増えます。 おすすめの順番は次のとおりです。
- まず1回のやりとりが安定するか。 同じ入力で同じ形式が返ってくるか。ここが揺れていると、上で何をしても揺れます。
- 次に、渡している情報が適切か。 足りないのか、多すぎるのか。長い会話で崩れるならここです。
- その次に、止め方を決める。 何回まで試すか、どうなったら終わりか。ここを決めずに動かすと費用が読めません。
- 処理が枝分かれし始めたら、図に落とす。 分岐が3つを超えたあたりが、グラフを検討する目安です。
- 最後に、任せられる状態にする。 権限、記録、評価、人が確認する場所。ここが揃って初めて本番に出せます。
「モデルを変えれば解決する」とは限らない
この整理が生まれた背景には、モデルを新しくしても期待したほど良くならなかった という経験の積み重ねがあります。 2025年から2026年にかけて「ボトルネックはモデルではない」という議論が増えたのは、 そのためです。
渡している情報が足りなければ、賢いモデルでも答えようがありません。 止め方を決めていなければ、賢いモデルほど長く粘って費用がかさみます。 モデルの性能で押し切れる範囲には限りがある—— 層で考えることの実用的な意味は、ここにあります。
用語について
これらの言葉は2025〜2026年にかけて広まったもので、 定義が完全に固まっているわけではありません。 書き手によって範囲の取り方が違うことも珍しくないので、 この記事の整理も「ひとつの見方」として読んでください。
なお「ハーネスエンジニアリング」で検索すると、 自動車のワイヤーハーネス(配線)の設計の話が混ざることがあります。 読みは同じですが、まったく別の分野です。
各層の詳しい解説
- コンテキストエンジニアリングとは — 何を渡し、何を渡さないか。費用にも直結します
- グラフエンジニアリングとは — ループとの違いと、いつ移行すべきか
- ハーネスエンジニアリングとは — モデルの外側をどう設計するか
- プロンプト圧縮ツール — 指示文を短くして、無駄なトークンを削る
費用の見当をつけるなら、トークン数の計算と AI導入の費用対効果もあわせてどうぞ。 使うモデルの選び方はAIサービス比較にまとめています。
本記事は2026年8月時点で見られる用語の使われ方を整理したものです。これらの言葉は新しく、定義や範囲は書き手によって異なります。特定のフレームワークやサービスを推奨するものではありません。