年収が上がって手取りが減ることはあるのか
最終更新: 2026年8月11日
「昇給したら税率が上がって、かえって損をした」——よく聞く話です。 結論から書くと、所得税や住民税のせいで手取りが減ることはありません。 ただし、別の理由で本当に減ることはあります。 どちらも実際に計算して確かめました。
まず、税率の段をまたいでも手取りは減らない
所得税の税率は、課税所得が195万円までは5%、195万円を超えると10%、 330万円を超えると20%……と上がっていきます。 この表を見て「330万円を超えたら全体に20%かかる」と読んでしまうのが、誤解の正体です。
実際には、超えた部分にだけ高い税率がかかります。 課税所得を329万円から331万円へ、 330万円の段をまたいで¥20,000増やしてみます。
| 課税所得 | 所得税 | 差し引き手元に残る額 |
|---|---|---|
| 329万円 | ¥231,500 | ¥3,058,500 |
| 331万円 | ¥234,500 | ¥3,075,500 |
| 増えた分 | +¥3,000 | +¥17,000 |
¥20,000増えて、税金は¥3,000しか増えません。 330万円を超えた¥10,000にだけ20%がかかり、 その下の部分は5%と10%のままだからです。手取りは¥17,000増えています。
これはどの段でも同じで、累進課税の仕組みそのものが、 逆転が起きないようにできています。 「税率の段の手前で調整する」ことに意味はありません。
では、本当に減るのはどこか
逆転が起きるのは、「いくら以上なら / 未満なら」で判定する段差のある制度です。 税率のようになだらかではなく、境目でいきなり切り替わります。
1. 社会保険の標準報酬月額の等級
健康保険料と厚生年金保険料は、実際の月給そのものではなく、 等級で区切った「標準報酬月額」に料率をかけて決まります。 等級の境目をまたぐと、月給が1円しか増えていなくても保険料が一段上がります。
たとえば標準報酬月額が1つ上の等級(2万円ぶん上)に上がると、 本人負担は月¥2,830、年間で¥33,960増えます (厚生年金9.15%+健康保険5%の本人負担分で計算)。 月給の増え方がこれより小さければ、手取りは減ります。
等級は4〜6月の給与の平均で毎年決め直されます(定時決定)。 この時期に残業が多いと1年ぶん高い等級になる、というのはこの仕組みによるものです。 等級表は 日本年金機構のサイト で確認できます。
ただし、上がった保険料は将来の厚生年金の額にも反映されます。 その場で手取りは減っても、まるごと消えるわけではありません。
2. 住民税の非課税限度額
住民税には「所得がこれ以下なら課税しない」という限度額があり、 わずかに超えると均等割が発生します。 均等割は所得に比例しない定額なので、境目で逆転します。
目安として年収100万円で計算すると、 ¥999,999のときの手取りは¥999,999、 ¥1,000,000のときは¥995,000。 年収が¥1増えて、手取りは¥4,999減ります。
非課税限度額は自治体と扶養親族の人数で変わります。 実際にはこの前後に調整の仕組みもあるため、逆転の幅はもっと小さくなることもあります。 とはいえ、段差があること自体は変わりません。
3. 会社の家族手当・住宅手当
見落とされがちですが、影響が大きいのがここです。 配偶者の年収が「103万円以下」「130万円未満」といった条件で家族手当を出している会社は今もあり、 その条件を外れると月1〜2万円の手当がまるごとなくなります。
年間にすると12〜24万円。税金や社会保険料の増え方より大きいことも珍しくありません。 会社の就業規則を確認するのがいちばん確実で、 これは調べればすぐわかるのに調べられていない、という典型です。
4. 住民税の額で決まる制度
保育料、高等学校等就学支援金、大学の授業料減免、公営住宅の家賃などは、 住民税の所得割額で階層が決まるものが多くあります。 階層が1つ上がると負担が増えるので、境目の前後では逆転が起こりえます。
とくに保育料は自治体ごとに階層の刻みが違い、 きょうだいの人数でも変わるため、事前に見通しを立てにくい部分です。 該当しそうなら、自治体の階層表を見ておくと判断しやすくなります。
5. 配偶者控除がなくなるライン
これは本人ではなく、配偶者側の税金の話です。 配偶者控除・配偶者特別控除は、控除を受ける側の合計所得にも上限があり、 それを超えると控除が減り、やがてゼロになります。 世帯の手取りで見ると、ここでも段差が生まれます。
配偶者側の年収がどこまでなら控除が残るかは、 扶養の壁シミュレーターで確認できます。
「減る」わけではないが、手取り率は下がる
もうひとつ、混同されやすいのが手取り率の話です。 年収が上がると手取りの金額は増えますが、増え方は鈍ります。 給与所得控除が年収850万円で頭打ちになり、税率も上がっていくためです。
| 額面年収 | 手取り(年) | 手取り率 |
|---|---|---|
| 500万円 | ¥3,899,048 | 78% |
| 700万円 | ¥5,302,870 | 75.8% |
| 850万円 | ¥6,238,254 | 73.4% |
| 1,000万円 | ¥7,117,799 | 71.2% |
| 1,500万円 | ¥9,853,947 | 65.7% |
| 2,000万円 | ¥12,254,032 | 61.3% |
年収が4倍になっても手取りは4倍にはならない、というだけの話で、 金額そのものは一貫して増えています。 「率が下がる」と「減る」は別のことです。
まとめ
- 所得税・住民税の税率では、手取りは減りません。段を越えた分にだけ高い税率がかかります
- 減るのは、段差のある制度——社会保険の等級、非課税限度額、会社の手当、住民税額で決まる負担
- いちばん影響が大きく、いちばん調べやすいのは会社の手当の支給要件
- 手取り率が下がることと、手取りが減ることは別
自分の年収で手取りを確かめるなら手取り計算、 逆に手取りから必要な額面を出すなら額面の逆算が使えます。 配偶者の働き方で世帯の手取りがどう変わるかは 年収の壁で手取りはいくら減るのかで 1万円刻みに計算しています。
本記事の金額は全国平均の料率による概算です。社会保険料率は加入先の健康保険組合・協会けんぽの都道府県・年齢で変わり、住民税の非課税限度額は自治体と扶養親族の人数で変わります。会社の手当の要件は就業規則によります。実際の金額は源泉徴収票・給与明細、お住まいの自治体、勤務先にご確認ください。